車の電動化とコネクト化で最後に笑う会社はどこか

トヨタとNTT、「つながるクルマ」で協業 5G(第5世代移動通信)を活用(日経ビジネス)という記事を敷衍して、車の電動化とコネクト化で激変する業界地図を俯瞰してみたい。

今、自動車業界は電動化(EV)と自動運転を中心とするコネクト化で大変革の時代を迎えている。車が電動化で嬉しいのは、電気がたくさん売れる電力会社であり、車がコネクト化して嬉しいのは、車と地上サーバーの通信トラフィックが激増する通信会社である。少子高齢化で電気も電波も売れなくなる縮みゆく日本では、最後の特需といってもいい。だから、通信会社と電力会社は、トヨタ・日産・ホンダなどの自動車会社にすり寄っていく。

しかし、その自動車会社も左うちわで大儲けできるといった余裕の表情を浮かべてはいない。Uberのようなカーシェアモデルの出現によって、自動車は「所有するもの」から「利用するもの」に変わりつつある。この潮流は自動車メーカーにとって2つの意味で脅威である。

第一に、現在、日本にある自家用車の大半は家庭の駐車場に止まっていて、稼働率は5%とも言われる。かつて、多くの消費者は自動車を「ステータスシンボル」として購入していた時代は、車は稼働するよりも、家に陳列して悦に入る道具だった。

しかし、車の所有権が個人からUberなどのシェア事業者に移れば、稼働率は劇的に向上する、すなわち、車の絶対量は激減する。車の性能向上によってライフサイクルが伸びていることと併せて、巷間噂されるところでは新車販売台数は現在の500分の1になるのではないかというのだ。第二に、車販売の相手が個人ではなく、B2BしかもUberのような独占事業者になることで、販売側の価格支配力は圧倒的に弱まる。自動車会社は踏んだり蹴ったりで、安閑としていられない。

電力も同様だ。電気自動車(EV)が増えても、それは個人がガソリンスタンドでガソリンを購入するというようなしろものではなく、充電するのはカーシェア業者である。だから、電力販売もまた、B2CからB2Bに変貌するので、電気料金はカーシェア事業者に相当に買い叩かれることになる。

では、Uberなどのカーシェア事業者が、新しいパラダイムでの独占利潤を喰み、この食物連鎖の頂点に鎮座することになるのであろうか?私は違うと思う。

皆さん、今Uberの営業利益は大赤字だというのはご存知だろうか。取引量が膨大に増えていて、競争相手もいる中で、コストを消費者に転化できずに大赤字となっている。もちろん、今は市場の拡大優先で利益は後からついてくるという戦略なのだろうが。

で、Uberがどこにお金を使っているかといえば、通信とデータ格納である。その受け入れ先はAmazon AWSである。一年間で2倍になる通信量をガブッと飲み込んで対応できるのは、クラウドコンピューティングの雄Amazonくらいなものだ。

今はまだ、車を使う人と提供する人のマッチングだけでこれだけのデータトラフィックなのだから、もし1台あたり数ギババイトが必要になる自動運転が普及すると、その量は桁違いに増加する。Amazonはここで大儲けを狙っている。

実は今、AmazonはAWS以外のビジネスは大赤字である。本や日用品の配達拠点に猛烈な勢いで投資し、そのリターンはわずかなので、EC事業は大赤字で、その穴をクラウドサービスで埋めている構図だ。

だから、カーシェア事業者の上には、データ格納事業者と通信事業者がいる。でも、クラウドサーバーなどのデータ格納や5Gの実用化を狙う通信事業者が、世界の頂点に立てるかというと、これもそうではない。

そこで立ちはだかるのは、データセキュリテイという概念だ。

IT革命の今の時代、消費者のデータセキュリティに対する感度はとても低い。日本人が日常使う、LINE・Twitter・Facebook、いずれもサーバーは外国にあって、外国の政府が意図すればその濫用は原理的には可能だ。私見であるがLineは韓国政府が、WeChatは中国政府がそのデータを何らかの形でモニターしていると考える。

しかし、IoTの時代、データセキュリティは国の治世の根幹を揺るがしかねない脅威なりうる。例えば、テロリストハッカーが、自動運転システムに入り込んで意図的に交通事故を巻き起こしたり、電力管理システムに入り込んで東京を大停電に陥れるなどというリスクも考慮する必要がある。冨山氏がニュースピックスのインタビューで語っていたが、ITは「カジュアルな繋がり」でIoTは「シリアスな繋がり」だという色分けに完全同意する。ITでデータが多少漏れても人は死なないが、IoTでは生身の人の生き死にに関わる。申し訳ないが、シリコンバレーでTシャツを着てゆるくやっている種の人々に命を預けたくはないというのが私の率直な感想だ。

事実、米国国防省ペンタゴンは、兵器製造業者との間で堅牢な閉鎖的ネットワークを構築していて、その実装をしなければ米国に兵器を輸出する日本の大企業も受注できないので、そこが今大きな問題となっている。

データナショナリズムの動きもある。欧州では、Googleなど米国IT企業がユーザーの個人情報を独占支配している現状に大きな異議を唱えて、個人情報の所有権を取り戻すという条約を提起している。

だから、いくら米国シリコンバレーのIT企業がデータ格納についての圧倒的資金力と技術優位を保っていても、日本のデータビジネスを掌握できるとは限らない。日本政府も馬鹿ではないので、日系通信会社や、日系ITベンダーが主導権を取れるような施策を講じていると思われる。

そうすると、日本においても他国においても、IoT時代には、車や電子機器、エネルギーが通信を介してM2M的に操作されるエコシステムが出来上がるが、そのクラウドコンピューティングのデータストレージはやはり自国の中で完結されると思われる。

だから、IT時代のように、i Phoneの販売益の大宗が胴元のAppleや、製造者の中国・台湾に流れたり、Lineの事業益やキャピタルゲインが韓国に流れたりということにはならないのではないかと私は思う。膨大な消費市場とインフラ投資需要を持つ日本経済の先行きはそこそこ明るいのではないかと私は思う。それを、ガラパゴスと言うのなら、そうかもしれない。しかし、必ずしも「悪いガラパゴス」ではない。